タイトル: テストステロン補充療法とは|男性更年期の症状・検査・治療法を医師が解説
コンプライアンス注記: 薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に準拠。本文は教育・情報提供を目的としており、特定の医薬品・治療法の効能効果を広告するものではありません。治療に関する記述はすべて一般的な医学情報として提供し、受診・専門家への相談を推奨する内容で構成しています。
テストステロン補充療法とは|男性更年期の症状・検査・治療法を医師が解説
「以前ほど体が動かない」「なんとなくやる気が出ない」「パートナーへの関心が薄れてきた」——そういった変化を感じたとき、多くの男性は加齢や仕事のストレスのせいだと片付けてしまいがちです。
しかし、こうした変化の背景に、テストステロン(男性ホルモン)の低下が関与している可能性があることは、医学的に広く認識されています。
本記事では、テストステロンとは何か、なぜ低下するのか、どのような症状があるのか、そして現在の医療ではどのような対処法が検討されているのかを、医学文献をもとに解説します。本記事は教育・情報提供を目的としており、医療上の診断・アドバイスを提供するものではありません。気になる症状がある方は、必ず医療機関を受診してください。
テストステロンとは?その役割を理解する
テストステロンは男性の体で最も重要なアンドロゲン(男性ホルモン)であり、主に精巣で産生されます。脳(視床下部・下垂体)からの信号によって産生量が調整される精緻なシステム(HPG軸)のもとで管理されています。
テストステロンは以下のような多様な生理機能に関与しています。
- 筋肉量・骨密度の維持
- 性欲・性機能の調節
- エネルギー代謝・脂肪分布への影響
- 気分・認知機能・集中力への関与
- 赤血球産生への寄与
テストステロンの血中濃度は20〜30代前半にピークを迎え、その後年間約1〜2%ずつ緩やかに低下していきます。この変化自体は正常な加齢現象ですが、低下の程度や個人差によっては、日常生活に影響を与える症状が現れることがあります。
男性更年期(LOH症候群)とは
医学的には、加齢に伴うテストステロン低下により症状が生じる状態を「加齢男性性腺機能低下症(LOH症候群)」または「遅発性性腺機能低下症(Late-onset Hypogonadism)」と呼びます。一般的には「男性更年期」という言葉が使われることもあります。
欧州の大規模前向き研究(EMAStudy、Wu et al.、New England Journal of Medicine 2010年)によると、40〜79歳の男性のうち約2.1%が症候性LOH症候群の基準を満たすとされています。肥満・2型糖尿病・睡眠時無呼吸症候群などの代謝性疾患を持つ男性では、テストステロン低下のリスクが高まることが知られています。
テストステロン低下の主な症状
テストステロン低下に関連するとされる症状は多岐にわたり、いずれも特異的ではないため見落とされやすいのが特徴です。
身体的な症状:
- 慢性的な倦怠感・疲労感(十分な睡眠を取っても改善しない)
- 筋肉量の減少・筋力の低下
- 内臓脂肪の増加(特に腹部)
- 骨密度の低下(進行すると骨折リスクの上昇)
- 体毛・ひげの減少
- ほてり・発汗(一部に見られる)
性機能に関する症状:
- 性欲(リビドー)の低下
- 勃起機能の変化
- 射精量の減少
精神・認知的な症状:
- 気分の落ち込み・抑うつ感
- 意欲・集中力の低下
- 不眠・睡眠の質の変化
- 物忘れ・思考の鈍化
重要な注意点: これらの症状はうつ病、甲状腺疾患、睡眠障害など多くの疾患でも見られます。テストステロン低下の診断は、症状と血液検査の両方を組み合わせて医師が総合的に判断するものであり、症状だけで自己判断することは適切ではありません。
テストステロン低下の検査・診断方法
LOH症候群の診断には、症状評価と血液検査を組み合わせた体系的なアプローチが必要です。
ステップ1:症状の評価
AMS(Aging Males' Symptoms)スケールなど、標準化された症状評価ツールを用いて症状の程度を数値化します。これは診断の補助手段であり、検査との組み合わせで意義を持ちます。
ステップ2:血液検査
テストステロンの血液検査は、早朝(午前7時〜10時)・空腹時に行うことが推奨されています。この時間帯がテストステロン分泌のピークにあたるためです。一般的に測定される項目:
- 総テストステロン(Total Testosterone) — 基本的なスクリーニング指標
- 遊離テストステロン(Free Testosterone) — 生物学的活性部分。総テストステロンが境界域の場合に特に重要
- SHBG(性ホルモン結合グロブリン) — テストステロンの生体利用能に影響
- LH・FSH — 原発性(精巣性)か続発性(視床下部・下垂体性)かの鑑別に使用
- プロラクチン — 下垂体病変の除外
- 血算・脂質・PSA — 安全性評価のベースライン
多くの診療ガイドラインでは、異なる日に2回測定してともに低値であることを確認するよう推奨しています。一般的な診断閾値は総テストステロン250〜300 ng/dL(8.7〜10.4 nmol/L)以下とされていますが、臨床的判断が伴います。
テストステロン補充療法(TRT)とは
テストステロン補充療法(Testosterone Replacement Therapy:TRT)は、血中テストステロン濃度を正常な生理的範囲内に回復させることを目的とした処方による医学的介入です。
重要: TRTは医薬品(処方薬)であり、日本では医師による処方が必要です。市販のサプリメントや栄養補助食品とは根本的に異なります。TRTは適切な診断と医師の継続的な管理のもとでのみ行われる治療法です。
TRTの主な投与方法
現在臨床で用いられる主な製剤:
筋肉内注射
最も一般的な投与法。テストステロンエステル製剤(エナント酸テストステロン等)を1〜2週間に1回注射します。長時間作用型製剤(ウンデカン酸テストステロン、国内販売名:ネビド等)では10〜14週間に1回の注射で済む場合もあります。血中濃度が安定しやすいとされています。
外用ゲル・クリーム
肩や上腕の皮膚に毎日塗布するタイプ。注射が難しい方に適していますが、皮膚接触によるパートナー・子どもへの成分移行を防ぐための注意が必要です。
経皮パッチ
皮膚に貼付して使用するタイプ。皮膚刺激が出る場合があり、ゲル製剤ほど一般的ではありません。
製剤の選択は、患者の状態・生活スタイル・医師の判断に基づいて決定されます。
臨床研究が示すこと
TRTに関する医学的エビデンスは比較的豊富です。最大規模の研究として、米国国立衛生研究院(NIH)が支援した「テストステロン試験(Testosterone Trials:TTrials)」が挙げられます。これは7つの無作為化比較試験を協調して実施した大規模研究です。
主要な知見(情報提供のみを目的として引用):
- Bhasin et al.(New England Journal of Medicine, 2018年): テストステロン低下の高齢男性において、TRTはプラセボと比較して性欲および性機能を有意に改善したと報告されています。
- Snyder et al.(JAMA, 2018年): TRTは骨密度(容積骨密度)および骨強度の推定値を有意に増加させたと報告されています。
- Resnick et al.(New England Journal of Medicine, 2017年): 認知機能への有意な改善効果は認められませんでした(TRTは認知症や記憶障害の治療法ではありません)。
なお、心血管系への影響については現在も研究が続いており、ガイドラインは引き続き注意深い患者選択と経過観察を推奨しています。
TRTが適さない場合
すべての男性がTRTの適応となるわけではありません。以下の場合は禁忌または慎重な適応となります。
- 前立腺がん・男性乳がんの既往または罹患中(テストステロン依存性腫瘍への影響)
- 赤血球増加症(ヘマトクリット値54%超)
- 未治療の重症閉塞性睡眠時無呼吸症候群
- 妊孕性(生殖能力)を希望する方:TRTは精子産生を抑制するため、将来の生物学的父子関係を希望する場合は、開始前に代替療法(hCGやクロミフェン等)について医師と相談することが推奨されます
- 最近の心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中等)後6か月以内
TRT開始前には、PSA検査・血算・心血管リスク評価を含む包括的なベースライン評価が標準的に行われます。
TRT中のモニタリング
TRT開始後は、定期的なフォローアップが安全管理の要です。標準的なモニタリング項目:
- テストステロン値:開始3か月後、以後6〜12か月毎
- 血算(ヘマトクリット:多血症の監視)
- PSA:6〜12か月毎(50歳以上はより頻回に)
- 症状・生活の質の評価
TRTは一度処方して終わりではなく、継続的な医師管理が前提の療法です。
日本で受診するには
テストステロン低下が疑われる場合、まず医療機関を受診して評価を受けることが最初のステップです。日本での受診窓口:
- 泌尿器科・内分泌科・男性更年期外来:専門的な評価を受けられます(要紹介状の場合あり)
- かかりつけ医(一般内科・家庭医):初期スクリーニングや専門科への紹介
- オンライン診療(遠隔医療):自宅から医師に相談でき、血液検査の手配から処方まで対応可能なプラットフォームが増えています
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よくある質問(FAQ)
Q:男性更年期は女性の更年期と同じですか?
A:基本的なメカニズム(性ホルモンの低下による症状)は共通しています。ただし、男性の場合はテストステロンの低下が緩やかであることが多く、症状の現れ方や個人差が大きい点が異なります。また、診断には血液検査が不可欠です。
Q:テストステロン補充サプリメントと処方薬は何が違いますか?
A:市販のサプリメントで「テストステロンをサポート」と謳うものがありますが、これらは実際のテストステロン(医薬品成分)を含まず、その有効性は臨床的に確立されていません。TRTは薬局医薬品または処方薬として分類される医学的治療であり、医師の処方と管理が必要です。根本的に別物です。
Q:TRTは生殖能力に影響しますか?
A:はい。TRTはHPG軸を通じて自己の精子産生を抑制するため、治療期間中は精子数が減少することがあります。将来的に子どもを希望する方は、TRT開始前に必ず医師に相談してください。代替療法の選択肢があります。
Q:効果はいつ頃から感じられますか?
A:症状によって異なります。性欲の変化は早ければ3〜6週間で感じられることがあります。気分やエネルギーの改善は3か月程度、体組成(筋肉・脂肪)の変化は3〜6か月以上、骨密度の改善には1〜2年かかることが多いとされています。個人差が大きく、継続的なフォローアップが重要です。
Q:インターネットで購入したテストステロン製品は使っても大丈夫ですか?
A:インターネット等で流通する未承認・無認可のテストステロン製品の使用は、品質・安全性が保証されておらず、健康上のリスクが伴います。日本では医薬品として承認されたテストステロン製剤のみが使用でき、必ず医師の処方が必要です。
本記事は教育・情報提供を目的として作成されており、特定の疾病の診断・治療を目的とした医療上のアドバイスを提供するものではありません。また、特定の医薬品の効能効果を標榜・広告するものでもありません。症状に関する判断や治療の選択については、必ず医師にご相談ください。
参考文献:Wu FCW et al. NEJM 2010;Bhasin S et al. NEJM 2018;Snyder PJ et al. JAMA 2018;Resnick SM et al. NEJM 2017;日本泌尿器科学会 男性LOH症候群診療ガイドライン;AUAテストステロン欠乏症ガイドライン2022。

